バイアウト・ファンドの経験から投資クライテリアについて整理してみます。
投資クライテリアとは,何があれば投資するか,何がなければ投資しないかを定める,基準やチェック項目のことをここでは定義します。
投資規模による基準の特定
1件あたりの投資金額には,上限と下限についてのガイドラインを設けることが多いです。
ガイドラインは,投資対象の企業規模,ポートフォリオ分散,投資実行・管理上の効率の観点から決まってきます。
下限が少額になれば,中小企業やベンチャー色彩のある企業投資のリスク・リターンとなり,20億~30億円以上の設定であれば,中堅以上の企業規模の投資をしていくことを意味します(エクイティチェック)。
1件1件が少額であると,投資するときとその後の管理において,大小にかかわらず一定以上の労務負担・善管注意義務(善良なる管理者の注意をもってその業務を執行すること)を果たす必要があるので,あまり少額のものばかりになるとファンド運営がままならなくなってしまいます。
かといって,1件が大きければ大きいほどいいというわけではありません。
リスク分散のため,1件当たりの上限を設定する必要があります。
上限は,ポートフォリオ分散(集中回避)の観点からファンド総額の2分の1,3分の1又は4分の1などというように決まってきます。
なお,最大投資額については,ファンドからの出資と合わせてファンドに投資している投資家からさらに個別案件ベースで共同投資の形をとることにより,ファンドとしてのリスクボリュームは縮減され,相当に大きな案件にまで対象を広げることは可能と思われます。
ときには,事業規模の大きい投資案件が組成される場合には,複数のファンドが共同で投資する場合があります。
また,多くの場合,LBOにより,ファンドからの出資だけでなく,銀行借り入れを組み合わせてバイアウトを実現するので,かなり大規模なものも手掛けられることにはなります。
事業価値の現在価値と将来価値
企業価値の評価を行い,株式市場や未上場企業のオーナーにおける現在の価値評価と比べて,対象企業の現在又は将来の本質企業価値が高ければ,策を講じることにより事業価値が向上する可能性があることがわかります(類似上場会社のマルチプル(株価倍率)を使ったりします)。
バイアウト・ファンドは,投資する企業の事業価値は,株価倍率算定法にてEBITDA(営業利益に減価償却費を足し戻した数値)の大体5-10倍と評価します。
また,データ分析を駆使して,過小評価されている企業を探し出す作業を徹底して行い,投資対象企業を洗い出すファンドもあります。
投資しない企業の分類を定める方法
一方,投資対象の間口を広めに設定するために,「投資しない企業」を定める方法もあります。
投資をしない案件の基準をつくり,それら以外の案件から投資基準に合うものを抽出するというゲートキーパーを設定する方法です。
「投資をしない案件の基準」の典型的な例としては,バイアウト・ファンドであるという基本に忠実になり,①不動産事業,②ベンチャー企業,③企業再生案件,④時間がかかる案件には手を出さないという基準がありえます。
これらには以下のようなロジックがあります。
①不動産会社に投資した場合は不動産市況に大きく影響されてしまいます。ファンドの限られた資本力と時間では,市場の変動を乗り切ることはできません。市場が苦しい時期も含めて20年以上,コミットする必要があるでしょう。
②ベンチャー企業への投資は,複数の少額投資家による共同投資であることが多く,一つのファンドの意思がそのまま反映されることは少ないです。またベンチャーは,成長を実現するには時間がかかる場合が多いため,エグジット時に予定利回りを実現させることは困難です。
③企業再生案件(ターン・アラウンド)では,特別な一連のスキルが必要となります。企業が業績不振に至った原因を突き止め,業務遂行の方法を根本から変革させるためのオペレーションを行うことになるので,担当となる人は経験者でなければ成果を上げることは難しく,また,一つの案件に多くの時間を費やし,対象企業に深く関与しなければなりません。
④バイアウト・ファンドの投資対象となり得る中堅企業は,日本に数多く存在することから,経営戦略の見直しを柔軟に行うことができ,かつその効果が5年程度以内の期間で表れる企業を選別しなければなりません。そのため,「例えば酒蔵や種苗など,生物の力を借りなければならないものは難しい」などの判断はありうると思います。
まとめ
一つの投資先にあまりにも多くの時間を割くことは,他の企業への関与の時間を減少させることになり,なおかつ,案件の成否がノウハウに過度に依存してしまうため,全体としてファンドの投資リスクが高くなる側面もあることに注意が必要です。