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非上場会社のValuation

≒価値創造行為

2020年5月22日

「なぜValuationっていうのが非常に重要か,なぜ取り上げるのかっていうところなんですが,価格がないんですね。」

valuationがなぜ重要なのか。それは,取引においては価格は要件であるからです。

個別性の高い取引類型についてはどのように価格を形成するのかが課題であり,価格を形成できる人がディールメイクできます。価格形成行為は取引非対象物を対象物に格上げする行為であり,ほぼこれは価値創造といってよいのではないでしょうか。

需給バランスによる価格形成と積算による価格形成がありますが,どのように相場がない未上場株に反映させるか。

もう一つ重要である理由として,それが評価基準になるからです。価格形成行為とその事後的評価は連続しています。例えば,コーポレートの都度プロパー借入れでバイアウトとかベンチャー投資とかやってます,というときに投資パフォーマンスをどのように考えるか。これもValuationの観点抜きには語れません。

さて,売主が「純資産30億の会社ですよ」と。でもこれ実際にキャッシュを生み出すリターンの観点で考えるとそんな金額到底出せないみたいな会社いっぱいあります。それはなぜか。ひとつは簿価のおかしさ,あとはネットデットのわかってなさです。

自分の体験なんですがディストレスで買った会社にいろいろ増資や親子貸付やらなんやらして,今年間2.4億営業利益これが投資の観点で儲かっているのか。ちょっと一歩踏みとどまってみたいところです。

ではDCFをしっかりやればいいかというと,必ずしもそうとも言えません。例えばWACC(加重平均資本コスト)は,DCF法の重要なところですが,このWACCと,もう一つ,Growth(永久成長率)でValuationが大きく振れてしまう,特にTerminal Valueの部分が全然違ってきます。倍ぐらい違う時あります。

ここではDCF法ではなく,EBITDA,NetCashからEnterprise Value(EV)とEquity Value(EQV)を導き出す「倍率法」について考えてみたいと思います。

そもそも,EBITDAというのは,「営業利益+償却費」です。EBITDAの機能は,キャッシュフローの代替指標です。営業利益は会社に残るキャッシュですね。でも償却費が引かれた状態で営業利益となります。償却費はキャッシュアウトしないもので,外注先仕入先に払うお金じゃないです。だからキャッシュは減らないです,でも費用として計上されてます。だから足し戻します。

そうすると営業利益と償却費を足せばキャッシュフローと言うか,それに近いものと考えることができる,というのがEBITDAの考え方ですね。これがよく使われます。

NetDebtというのは,よくゴルフでもベスグロとか言いますが,グロスの対義語としての「ネット」の負債金額という意味ですが,有利子負債(長期借入・短期借入・社債)の合計から,現金(キャッシュ)とか現金同等物(キャッシュライクアイテム)を引いたものです。その数式を逆にしたものがNetCashの計算式です。私はNetCashで考えるようにしています(マイナスのNetCashとしてNetDebtを考える。同じことです。)。

普通はちゃんと借入れして現金は持ちすぎずROE(Return on equity)を高めようとしている会社が多いと思います。

NetDebtといいますが,有利子負債を現金同等物が上回っている場合は,NetDebtではなく,NetCash状態となります 。

さて,Valuationの目的は,株式の譲渡対価を定めることです。これを株式価値という言い方で言い表すことにします。株式価値というのは,どう説明しても循環するんで難しいんですけども,まず「株式価値」と「企業価値」を区別しましょう。この区別が大変有用です。

この区別がまずあり,〔株式価値〕というのは〔企業価値+NetCash〕又は〔企業価値-NetDebt〕,一旦これで覚えていただければと思います。

ここで,企業価値をどう求めるか,疑問に思う方が大半だと思いますが,これから説明します。〔企業価値〕というのは【対象会社のEBITDA〕×〔類似上場会社のマルチプル〕です。それではこの「類似上場会社のマルチプル」はどのようにして求めるか。

ここで外からのFactを導入します。上場会社の場合は株式市場において「時価総額」というものが出ています。株式市場はあらゆる情報が解析され,価格に反映される壮大な価格形成システムです。上場会社の場合はこの時価総額を株式価値と考えることとなります。

とすると,上場会社に関しては,株式価値が分かってNetCashも分かると,株式価値-NetCashで企業価値が算出できます。先ほどの,〔株式価値=企業価値+NetCash〕の式の変形です。必要なのはこの感覚なんですね。※私はNetDebtではなくNetCash(マイナスのNetCashも含む)で考えます。

株式価値=企業価値+NetCash

NetCash=現預金-有利子負債

企業価値=EBITDAx倍率

EBITDA=営業利益+償却費

倍率=類似上場会社の倍率の平均

類似上場会社の倍率=企業価値÷EBITDA

類似上場会社の企業価値=時価総額-NetCash

類似上場会社Aの時価総額からNetCashを引いて同社の企業価値がわかると,これを同社のEBITDAで割ってEV/EBITDAマルチプルがわかります。EVというのはサイドになりますが,Enterprise Value,企業価値のことです。これを類似上場会社B,C,D,E…という風に満足するまで行います。そしてそれぞれのEV/EBITDAマルチプルを平均します。上場会社はここまで手元で求めることができます。

冒頭にも記しましたが,非上場会社の場合は,一見株式価値の指標らしい簿価純資産,これが信頼できないのです。そこで,当該会社のEBITDAに,類似上場会社の今算出したEV/EBITDAマルチプルを掛けて企業価値を出します。例えば類似上場会社のEV/EBITDAマルチプルの平均が6倍と出たとします。そしたらEBITDAの2億にそれをかけて企業価値が12億となり,あとはそこにNetCashを足すと株式価値が出ます。

一応こういう形でValuationの基本公式があるんですが,マルチプル法の具体的計算を説明します。買いたい対象会社出てきました。買手には「類似上場会社を5社ぐらい選定してみてください。」と私は言います。

類似上場会社を指定していただいたら,各社のEBITDAを出します。時価総額がGoogle検索とかで分かるのでそこにネットデット(四季報とかでわかります)を足してEVを算出します。各社のEV/EBITDAマルチプルを出し,平均します。ここまでがマルチプルを算出する手順です。類似上場会社のEV/EBITDAが出れば,それ以降は対象会社のEBITDAにマルチプルをかける作業ですね。対象会社のEBITDAにマルチプルをかけてそこに同社のNetCashを足して対象会社の株式価値を算出します。 しかしこれでは終わりません。

この株式価値に支配権プレミアムを掛けます。バイアウトの場合は買収後対象企業を支配株主としてコントロールできるのでプレミアムを載せます。さらに,非流動性ディスカウントかけます。流動性がないので,また,ちゃんと監査を受けてないのでというような感じです。

よくTOBで支配権プレミアムが載ります。50%超を取得するための買収を容易にするためのプレミアムという理解は一つの実態としてできるんですが,実際には「支配権を取れるから」発生するプレミアムです。例えばZホールディングスにとってはZOZOの経営資源を自社の経営資源として思いのままに使えるから50%超を取得できることは,非常に価値がある,ということになります。これが支配権プレミアムの本質です。

倍率法は,シンプルに言うと類似上場会社のValuationを見てそれをその対象会社に適用しましょうと本当にそこだけですね。そうすると細かいプロジェクションとか書かなくても計算できる。AIが進展してくればこの方法がなくなっていくのかもしれないですが 。

#非上場会社のValuation