1つ目は,企業売却時のオーナーさんが表明した内容の確認,表明保証とかいいますが,「簿外債務があるかないか」とか「見込みの計画がすごい蒸かしていないか」とか,そういうところをチェックします。表明保証違反になれば損害賠償の対象になるので,ここはM&Aの契約との連続性を意識する必要があります。M&A後忙殺されがちであまり意識されていないような気がするんですが,しっかりやったらいいかなと思います。
2番目が,名義株も含めた少数株主への対応です。相続なども絡んで,会社やそのオーナーと疎遠な少数株主がいらっしゃる場合があります。基本的なお願いして買い戻させてもらうと思うんですが,場合によってはスクイーズアウトします。
3番目が,連綿とつながる財務諸表の起点であるBSをしっかりすることです。会計監査がなく,そのようなコストをかける必要もないビジネスも多いとは思うんですが,そこそこの規模であれば会計士を入れるということでいいです。ここでのポイントは,実際の数字が正しいかどうかという話だけじゃなくて,勘定科目の設定の部分,すなわち「構造」の部分を見直す必要があります。何が在庫で何が仕掛品で何が原材料で,定義をしっかりして,それを実査して,それぞれの数量と単価を見ていく必要があります。期中にM&Aが実行されることが大半だと思いますので期中の任意の時点でBSを作り直すイメージです。
4番目は,その企業の今後5年間の成長がどうなるかを見極めるために,M&A検討時のビジネスデューディリジェンスの仮説と実態との乖離を見極めることです。基本的にはM&Aの前の段階でビジネスデューデリジェンスの中で,プロジェクションを,専門のコンサルが作成することが多いと思いますが,入ってみて,結局30%がその仮説と合っているぐらいだと思います。結局は,入っていった上でサプライチェーン全体を把握することが非常に重要になってくる。また,社内の状況を把握することで,何がボトルネックになってるかを知ることになります。それは生産手段の要素が多く,キャパシティ不足をどう克服して当初のプロジェクションを達成するか。また,一つはマーケットが枯れてきているとか競争が激化してるとかそういうこともあります。最近だと市場の規制が緩和されて,自由化されることに伴い,今まで制度の壁に守られてたのがなくなる,それがビジネスデューディリジェンスで想定されていたより業績へのインパクトが大きいということが,あります。
4番目に関連して留意すべき点は,投資時には,収支計画を提示して投資を実行するのであり,その数字を実現して狙い通りのバリューアップをするゲームをしている,という点です。「入ってみたらそんなの無理でした」っていうことは許されない。ただ,存在と当為を混同して目が曇ってはだめなので,まずはしっかり分析して足元の見通しを立て直すということはする,その上で,投資時の収支計画と,入ってみてわかった社内での実力の乖離を認識し,それをどういう風に克服するか,どういうところに資源を配分するか,ということを考えていくということになります。
5番目は,煎じ詰めると「どこまでおもしろがれるか」ということだと思うんですが,マーケットでその会社に独自の要素を独自の視点で見出す,ということです。とにかく,その会社が受注にあたって,「(色んな他の条件が全く同じで)あとは値段です」っていう状態で商売をしているとかなり厳しいわけです。その会社が相手にしてるお客さんを意識し,他社でそこにタッチできない,みたいなそういうところ見出し,どのニッチな分野ではトップだっていうところを見つけるということです。M&Aというスクリーニングシステムを通過してきた会社にはそれがあると信じ,その会社の強みを認識します。投資課題に苛まれて頭から全部否定するのではなく,何がその会社の強みなのか,といういうところ腹落ちするまで良く解釈してあげるということは非常に大切です。
ここではテクニカルな事項について触れましたが,M&Aは惑星に隕石が衝突するような話です。とりわけM&Aの対象が中小企業である場合,その従業員は,いきなり親会社が変わると,不安に感じます。しかもM&A公表直前に知らされます。基本的には,オーナーさんとコアメンバーの一部しか知らないという状態からのスタートになります。そういった感情面にも配慮しながら,上記のようなことを進めていくことになります。